卒業設計に失敗する方法
2015/8/29
ここで言う失敗とは、評価が低いという成績上の失敗ではなく、自分の将来への投資として見たときの失敗を意味します。
失敗するための態度 ・ 姿勢
- 考えていると称して、手を動かさない。
授業中に「考えているところです」と言って、虚空をにらみ続けている学生が毎年1〜2名いますが、みんな失敗しています。もしその学生が良いアイディアを持っていたとしても、 いったん頭の中から出さないと、それを客観的に眺めることはできません。文字でも、図でも、模型でもいいので、目に見える形にして、それらに客観的評価を下すことが必要です。
「下手の考え休むに似たり」
- 「卒業設計」というキーワードで資料を探し回って、ヒントを得る。
つまり、この記事を読んでいる時点で、あなたは失敗への道を歩み始めている恐れがあります。
「井の中の蛙、大海を知らず」
- 先生や友達と自分が設計しているものについて話さない。
賞をとってやるぞという意気込みのハイエンド学生が情報を漏らさないために黙っているのはOKですが、いまこれを読んでいる凡人のあなたは、人としっかり話して、自分の考えや設計内容をブラッシュアップする態度をもつことが大切です。
「岡目八目(傍目八目)」
- 過去の例を参考にしない。
建築物にはゼロからのオリジナルはありえません。実際に建てられた建築物そのものや、設計図をたくさん見て、良いところ、気に入ったところを、ありがたく拝借しましょう。
「温故知新」
失敗するための進め方
- コンセプトを文字の形で完成させようとする。
なぜダメか別記事に書いているので、参照してください。
- コンセプトという文字情報ばかりいじって、形を考えない。
これについても別記事を参照してください。設計であって論文ではないのに、文字情報ばかりいじる人がたくさんいます。文字情報をいじりたいのであれば、論文を書いてください。
コンセプトは抽象的なものです。抽象から具体的な形は生まれません。具体的な形があるから、抽象化するという作業が可能になるのです。 コンセプトとは抽象的なものであるので、どんな形にも対応可能です。言い換えれば、たくさんの建物をひとつのコンセプトから派生させることが可能です。 だから、コンセプトを優先的に考えると、形をまとめる方向に進みにくいのです。
- アイディアを練るときにCADやCGを使わない。
たぶん、学校で、製図CAD、3D-CAD、BIMのどれかを学んでいるでしょう。そのどれでもかまいませんから、必ず使いましょう。CADの良いとこ ろは、修正が楽なことです。手書きは修正が大変で、手間がかかります。だから手書きでやっていると、直すことが億劫になります。だから手書きはよろしくあ りません。 建物の形ができてからテクスチャ(素材)を設定する人がいますが、ふだん人が見ているのは、物体表面=テクスチャ(素材)なので、形作りと同時進行で検討しなければなりません。
- 手書きで下書きした図面を、CADで清書する。
上記の1の説明に書いたこともひとつの理由ですが、仕上げはCADでも手書きでも、自分が表現したいことが的確に示せる道具を使いましょう。CADを使う価値と意義は、プロセスで使うことにあります。 「CADでつくってプロッタで出したらきれいだから」とかいう人がいますね。若い世代は、烏口で墨入れされた美しい図面を見たことがないので、プロッタ出力がきれいだと思ってしまうのでしょう。きれいな図面にしたければ、烏口、せめてロットリングやステッドラーなどの製図ペンを使ってください。
- 架空の敷地を使う。
ハイエンド学生さんであれば架空の敷地を操れるかも知れませんが、いまこの記事を読んでいる凡人のあなたには無理です。また、実在の敷地には自由度がな いと思っている人がときどきいますが、大きな勘違い。でも、そういう人たちには説明しても無理、そして架空の敷地のまま進めた結果、大失敗して初めて自分 の愚かさに気づく場合がある、という状況です。
- なかなか敷地を決めない。
コンセプトに合う敷地がないとか言って、敷地決定を回避する人がいます。宇宙空間に浮かばせる、水中を漂わせるなどの特殊な場合を除いては、建物は重力の 働きで地面に引っ付きます。どこに引っ付けるかで、コンセプトも変化していきます。敷地が決まらないかぎり、コンセプトも決まる方向に進みません。
「郷に入っては郷に従う」
- 建築業界で働く身内の意見を聞く。
失礼ながら、実務者の意見は参考になりません。普通の建物になる方向か、逆に、破綻を来す方向か、そのどちらかに向かってしまいがちです。(それから、一般に、親は自分ができなかったことを子供にやってもらいたがるので気をつけましょう。)
以上、日頃から思っていることをまとめてみました。
とにかく、この記事を見つけ、読んでしまった時点で、あなたは凡人です。
悔しいかもしれませんが、そのことを認めてください。
自分ができないことを望むのは、迷路の中を水平方向に右往左往するのと同じです。いま自分ができることを、どんどんブラッシュアップさせ、洗練させていってください。同じ位置に立って、左右にぶれずに、どんどん上に登りましょう。そうすると、卒業設計ができあがるころには、ハイエンド学生になれなかったとしても、卒業してから社会に貢献できる人材になれます。