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コンセプトは最後でよい

2012/7/4

極論を書くので、短絡的にとらえないようにしてください!
※2015/8/29 にリライト

卒業設計にかぎらず、設計課題において、コンセプトを考えるように言われた経験のある人も多いでしょう。

過去20年にわたって、卒業設計を、直接、あるいは、間接的に指導して思うのは、

初期段階において、コンセプトはいらない。
下手をすると、設計を進める上での障害にしかならない。

ということです。

では、どうやって進めればよいかを書いてみると、

  1. 出発点では、「用途」を考える。

    ここで言う 用途 とは、 その建物で、人は何をするのか ということ。

  2. 「用途」に基づいた設計を行いながら、ときどき、その設計がもちうる「機能」を考える。

    機能 と書いたが、本当は (D.ノーマンが『誰のためのデザイン?に書いたような意味合いの)アフォーダンス と言いたいところです。 (『誰のためのデザイン?』は建築の仕事に就きたい人の必読書だと私は思います。)

    人は、設計者が想定していないたくさんのことを、その建物でやってしまいます。

    だから建物自体が原因となった不幸な事故が起きるので、危険箇所を察知することは実務においては当然必要ですが、もっと大切なのは、自分が設計したものの 使われ方の広がり を見つけることです。

    そして、この 使われ方の広がり は コンセプト に影響を与え、最悪の場合は、コンセプトと全く正反対のものであったりします。だから初期段階で、コンセプトを練り上げてみても、その時間の大半が無駄になることも多いのです。

  3. コンセプトは、できあがった設計を分析して、後付けで作文する。

    建築家と自称する人たちが、本や雑誌でコンセプトがどうのこうのと言っているのをよく目にしますが、
    大半が「建った後の、言い訳」です。学生さんたちも、それでかまいません。


ただし、

  • 2〜3のところは、数回のループを回す必要があります。
      「できた」と思っても、もう一度、自分が設計したものが持っている機能 (というより アフォーダンス )を見いだし、それが「正しいかどうか」を見極めなければなりません。

    ここでいう機能とは、W.J.Mitchell著、"The Logic ofArchitecture: Design,Computation and Cognition"で述べられているような機能(function)です。

    (もう20年以上前の本ですが、機能や形態を考える上での、大きなヒントを与えてくれる名著です。鹿島出版会から『建築の形態言語―デザイン・計算・認知について』という書名で邦訳が出ています。)


  • 2、3 には、観察力、分析眼が必要です。
    数回のループを回す中で、徐々に、鍛えられていきます。


それじゃ一体、コンセプトって何?


上記を読んで、学校で言われていることと違うけど、、と、混乱してきた人がいるかもしれませんね。

Wilipedia の コンセプト の項の「作品の概念・コンセプト」の部分を引用します。

人の手による絵画・書画・曲・文芸等の作品は、作者がその作品に込めた意図・意匠・目的・思い等の概念を有し、これを表現しており、「作品のコンセプト」等と言われている。又、受け手の感じ方によって新たな概念が付加される場合があり、作品に接する時代性や社会的価値観などの変化に伴って変わる。

これの 「受け手」 を 「その建物を使う人」に置き換えてみると、私が上に書いたことにつながりますね。

また、「受け手の感じ方によって新たな概念が付与される」 、、これはアフォーダンスに相当します。

建物は一般に自分だけのものではなく、多くの人が使うものなので、かならず、新しい概念(もっと簡単に言えば「使われ方」)が付与されるわけです。

だから、初期段階でコンセプトが確定することはありえません。

初期段階に抱いた思いと、できあがったものの両者を、その建物の利用者としての視点に立って観察した結果をすりあわせて初めて、コンセプトが組み上がるわけです。だから、結局、すべてできあがった後でないと、コンセプトは確定しないということになりますね。

そして、その建物の利用者としての視点に立った観察が 不十分すぎる場合、コンセプトではなく言い訳になってしまうわけです。気をつけてください。

Wikipedia の説明の中の、「時代性や社会的価値観の変化に伴って変わる」 については、卒業設計には手に余る部分なので、あまり気にしない方がよいでしょう。

さて、上に書いたことは、VectorWorks を使う使わないには、全く関係のないお話です。

※以下、2014/7/21 に追記。

上記は、「設計完了と同時にコンセプトは完成するので、設計プロセス初期で、設計せずにコンセプトをいじくり回すことにはあまり意味がない」、「設計プロセス初期で、設計を優先的に進めながら、コンセプトを考えることを同時進行せよ」というようなことを言いたいわけです。上記を軽率にとらえて、「コンセプトはあとから考えりゃいいや!」と思った人がいたら、その人はこの記事の読み方を間違えたということです。

では、設計開始時点のコンセプトと最終的なコンセプトが、全く正反対のものになったらどうしましょう?

今の私なら「良い設計であれば、気にする必要はない」と答えようと思いますが、指導教員に「ぜんぜん違うものができているじゃないか!」などと怒られたら、「自分が造りたいものを一所懸命考えているうちに、こちらの方が正しいと思えてきました」などと胸を張って伝えてみましょう。あなたのつくったものが「言い訳」ではなく「コンセプト」になっていたら、おそらく正当に評価してもらえるはずです。